2010年9月29日水曜日

Doubt on Tacticin Alzheimer's Disease


2008年よりP-III試験に入っていたEli Lillyのアルツハイマー治療薬semagacestatを題材に、アミロイド仮説に対する疑問と展望を簡単にまとめた記事。

原因が未だ判然としないことがそもそもの原因であるが、それでも研究活動は続けないといけないのは、単に巨大な市場性が秘められた疾患であるからだけでなく、本当に苦しむ人を救うという製薬に携わる人の夢でもあるから。

今回、Lillyのsemagacestatが、アルツハイマー患者の症状を逆に悪化させてしまった事は、Lillyにとっては、特に臨床試験時に費やした巨額の損失が痛いのだが、その後続薬にとっては、暗雲を立ちこめさせる結果となった。

しかしながら、γ-secretase阻害がAEの原因だったかどうかも分からないため、特に臨床入りしている他社は止めるに止められないだろう。

そんな中で最近注目されているのは、脳画像の検分や脳脊髄液の検査によって、アルツハイマー症状を発症するより早期に、発病の危険性がある患者を見分けられるようになった、技術の進展。

ちなみに、Lillyは今回の件の前にも、"patent cliff"と表現される特許切れ問題や待望のEffient(prasugrel)の売れ行き不振など、揺れに揺れている

2010年9月26日日曜日

Another PPAR gamma agonist sacked.

F.D.A. to Restrict Avandia, Citing Heart Risk

Avandia (rosiglitazone)はPPARγ作動を機序とした2型糖尿病治療薬として、1999年に発売(米、GSK)されて以来、2006年度に$2.5 billionの売り上げをピークとするブロックバスター薬として知られる。

 

 

さて、セールスピークを記録した直後の2007年、AvandiaにはCVリスクを高める可能性があるとの報告がなされた。この際にFDAは動かなかったが、それ以後に積もった調査報告を受けて、2010/9/23付けで以下の声明を公表。


  • Avandiaの処方は、他に存在する2型糖尿病では十分な効果を得られなかった患者に対してのみ許される


  • 現在Avandiaの処方を受けている患者は、担当医師と相談の上、継続の可否を決めること

 

--------------------------------------------

今回のポイントは、以下の二点。


  • FDAとEMEAが同内容の発表を同日に行った点


  • Avandiaの使用を厳しく制限しながら、ラベルにWarning記載をさせるのではなく、使用の制限を明確に打ち出した事

特に二点目は、大統領の政策とも密接にリンクしているとのことで、 ブッシュからオバマ政権への移行がこのような所に影響しているのも興味深い。

また、これに対して非常に迅速な対応を取ったのが、同じPPARγ agonist作用を持つACTOS (pioglitazone)を持つ武田。

 化学構造が異なる点と、CVリスクがPlacebo群と比較して上昇しないことを証明した試験(PROactive)、そして使用法を正しくプロモーションしているとの主張を材料に、問題が無いとしている。

しかしながら、このACTOSは別件、すなわち膀胱癌のリスク上昇の可能性についてFDAの再審査中。Avandiaにはこのような事例は報告されていないものの、ActosとAvandia以外の唯一のチアゾリジンジオン骨格を持つPPARγ作動薬であるRezulin(troglitazone、第一三共)もidiosyncraticな肝毒性が原因で1997-2000年の間に各国で承認取り下げとなっているため、一般の方の間で元々良いとは言えなかったPPARγ作動薬のイメージは更に低下するのは必至だと感じた。

読み込み中
クリックでキャンセルします
画像が存在しません

2010年9月17日金曜日

Forest, Maker of Celexa, Settels Marketing Claims

BOTOXのoff-label useを宣伝(off-label marketing)した件で$600 millionの賠償金を支払ったAllerganに引き続き、Forest Laboratoriesも同種の係争関係で$313 millionの賠償金を払うことに。

今回問題となったのは、CelexaとLexapro(S-enantiomer of Celexa)、そしてLevothroidの三商品。

Celexa
(S)-(+)-citalopram
SSRI, antidepressant.
Originally created in 1989 by Lundbeck.
Approved for adults over the age of 25. (Suicidality is concerned for those under 25.)

Levothroid

Synthetic form of thyroxine.
A hormone replacement given to patients with thyroid problems, i.e. hypothyroidism.

When it was originally launched in 1955 as Synthyroid, FDA did not approve it because it was "generally regarded as safe".
However, after it was shown that little difference existed between Synthroid and its generic brands in the 1990s, all levothyroxin prescriptions were required to undergo the formal FDA approval process.
Synthyroid was approved by the FDA on 24 July 2002.


昨年のPfizer($2.3 billion for misbranding Bextra)、一年前のEli Lilly($1.4 billion for misbranding Zyprexa)に続く調停の形だが、その賠償額には大きな差がある。
これはOn-lableとOff-labelを合わせた、薬剤の売り上げ、そして民事訴訟の際には原告側の被害の度合いなどが異なったためだと考えられる。

最後に、アメリカ司法省最大額となったそれぞれの調停について、原告側のコメントをかいつまんでまとめる。

■ Pfizer to Pay $2.3 billion for Fraudulent Marketing


“Illegal conduct and fraud by pharmaceutical companies puts the public health at risk, corrupts medical decisions by health care providers, and costs the government billions of dollars.
This civil settlement and plea agreement by Pfizer represent yet another example of what penalties will be faced when a pharmaceutical company puts profits ahead of patient welfare.”
Tony West, Assistant Attorney General for the Civil Division
“This settlement demonstrates the ongoing efforts to pursue violations of the False Claims Act and recover taxpayer dollars for the Medicare and Medicaid programs.”
Jim Zerhusen, U.S. Attorney for the Eastern District of Kentucky.

Boldで表記した辺りが一番のポイントだと思われる。
“The size and seriousness of this resolution, including the huge criminal fine of $1.3 billion, reflect the seriousness and scope of Pfizer’s crimes.
Pfizer violated the law over an extensive time period. Furthermore, at the very same time Pfizer was in our office negotiating and resolving the allegations of criminal conduct by its then newly acquired subsidiary, Warner-Lambert, Pfizer was itself in its other operations violating those very same laws. Today’s enormous fine demonstrates that such blatant and continued disregard of the law will not be tolerated.”
Mike Loucks, acting U.S. Attorney for the District of Massachusetts.
 ここいらも、額の大きさに影響している模様。

■ $515 Million Criminal Fine is Largest Individual Corporate Criminal Fine in History; Civil Settlement up to $800 million


"The illegal scheme used by Eli Lilly significantly impacted the integrity of TRICARE, the Department of Defense's healthcare system.
This illegal activity increases patients’ costs, threatens their safety and negatively affects the delivery of healthcare services to the over nine million military members, retirees and their families who rely on this system.
Today’s charges and settlement demonstrate the ongoing commitment of the Defense Criminal Investigative Service and its partners in law enforcement to investigate and prosecute those that abuse the government's healthcare programs at the expense of the taxpayers and patients."
Ed Bradley, Special Agent-in-Charge, Defense Criminal Investigative Service

Pfizerの際とコメントはほとんど同じ。
上に挙げたTRICARE関連の発言もPfizerの調停時に見られた。

世界のメガファーマでも、これらの係争で挙げたような違法プロモーションを行わないと、その地位が揺るいでしまうのが製薬業界かと思うと、日々一生懸命ながらぬくぬく研究所生活を送る自分とは温度差を感じてしまう。

2010年9月12日日曜日

Look out MOM!

Weight Problems May Begin in the Womb

 肥満は長年の生活習慣に左右され、遺伝子の影響も少しあるぐらい、という自分の中の常識を覆す記事。

 要約すると、母親の肥満度が赤ん坊の出生時体重に直接関わってくる、とのこと。
妊娠時の肥満度、そして妊娠中の増加体重の二点が影響する模様。

 例えば、妊娠中に24 kg以上体重を増した母親は、8-10 kg体重が増えた母親に比べて、4 kg以上重い赤ん坊を産んだとの調査がある。言い換えると、母親が1 kg体重を増す毎に、赤ん坊の体重は7.35 g増える。

 元々は低体重児の出生を防ぐために、妊娠時の母親は有る程度の体重増加を勧められる。
しかし、有る調査によれば、勧告通りの体重に留められる母親は全体の4割に留まる一方で、通常体重の母親の1/3、肥満の母親の1/2以上がこれを超える体重を身にまとってしまうという。

 更に、1990年代に比べ2000年代はこの傾向がより強くなるなど、特に欧米における負のスパイラルが浮き彫りになる調査結果もある。

 いくら出生時体重が高くとも、要は本人とその教育環境次第で肥満は避けられるという社会通念は変わらないだろうけれど、以下に示すような推奨体重増加量を守った方が懸命であろう。
¶28 to 40 pounds for thin women, with a B.M.I. of 18.5 or lower.
¶25 to 35 pounds for normal-weight women, with a body mass index of 18.6 to 24.9.
¶15 to 25 pounds for overweight women, with a body mass index of 25 to 29.9.
¶11 to 20 pounds for obese women, with a body mass index of 30 or higher.
 自分の周りにいる母親とその候補ぐらいには少なくとも、この話を伝えるべきだと思う。

Home sweet home

The Big Retreat (DDT)

Brazil, Ukraine, Mexico, Peru, China and India

これらの国、特にインドでは近年、第一相臨床試験が多く行われるという。
例えば2008年に欧米で承認された薬の80%が海外にて治験を行われてきた経緯がある。

これは必要経費が格段に安く、かつより短期間に大規模な試験を行えるためだが、実はFDAはそうした試験施設の調査を僅か0.7%に留めていることがHHS(United States Department of Health and Human services)により発表された。
これは1.9%という国内施設調査率の約1/3である。

問題なのは、inspectionが0.7%しか行われない施設での試験結果がどれほど信用できるか、という事ばかりでなく、危険性を孕む新薬を、何も得る事がない健常人で試すという行為が、専ら他国で行われている事にもある。


臨床試験だけではない。
実際の製造行程も、他の製造業と同じく海外に拠点を移す企業が多い。

印製造会社が不正な資料を提出するなど、削減される経費を上回るリスクがあると言わざるを得ない。
これらの事情を受けて、2009年2月より数ヶ月に一度、メガファーマの代表によりNGP EU SUMMITが開催され、より高質なアウトソーシングの方向性を探っている。

2010年9月11日土曜日

After fine, BOTOX awaits FDA approval for migraine

Allergan社の眼瞼痙攣治療薬BOTOX。
日本国内ではGSK社が販売。

作用機序は以下。

  1.  A型ボツリヌス毒素が重鎖部分においてコリン作動性運動神経終末に結合し、エンドサイトーシスにより取り込まれる。
  2. エンドソーム内にて軽鎖部分が切り出され、運動神経終末上受容体SNAP−25に結合し、アセチルコリン放出を抑制することで、過活動を制御する。

承認後、uncontrolled blinking, certain neck muscle spasms, excessive underarm sweating, and wrinkles between the eyebrowsなどの追加適応が認められ、現在では年間$1.3 billionの売り上げを誇る。

しかしながら、本記事で取り上げられているように、そのmarketing方法がcleanではなかった疑いが持たれ、その関連の訴訟により$600 millionを賠償することが決定している。

その内訳は、(1)$375 million to the government; FDAに認可されていない用途(脳性麻痺児童の四肢痙攣/疼痛の軽減)での処方を宣伝したとの罪、(2)$225 million to resolve civil charges; Medicare(65歳以上人口を対象とした公的医療保険機関)とMedicaid(低所得者層を対象とした公的医療保険期間)に対し虚偽の報告をした罪。

これ以外にも、BOTOXのoff-label use(偏頭痛)を促進するために権威有る神経学者を登用した宣伝映像を使用したり、Ogilvy Healthworldという第三者機関を利用しNeurotoxin InstituteなるWeb-siteを立ち上げ、実際に処方を行った医師に見返りを支払った等の嫌疑をかけられている模様。



その一方で、BOTOXは偏頭痛適応をUKにて取得しており、これだけの違法行為が明るみに出ている米国においても承認を得られると期待しているとのこと。

偏頭痛に対しBOTOXを用いる場合、$1000-2000の費用で、頭や首、肩など30-40カ所に注射し、効果は3-4ヶ月持続するとのこと。
BOTOX注を受けた患者が月120時間偏頭痛から解放された一方で、placebo群は月80時間に留まる等、有る程度の有効性は示されている模様。

FDAはボツリヌス毒素が頭部以外の部位に到達した場合、呼吸困難などを引き起こす危険性がある点などを盛り込んだblack box warningを付与するよう要請している。

-------------------------------------
所感

まず、製薬業界にいる人間として、このような企業行為が罰金さえ支払えばまかり通る世界なのが心苦しいし、多くの犠牲を払いながら企業利益と患者保護のバランスを取るべく調整されてきた一連の新薬承認制度を無下にするような非人道的行為に自分の会社が手を染めていないこと、そして染めることが無いよう祈るばかり。

特に今回はボツリヌス毒素という非常に危険な有効成分を扱った薬剤であり、患者より企業利益が高い優先順位を持つような会社は長期的には必ずや倒れるのが筋である。















-------------------------------------


参照
# GSK社解説サイト
# http://en.wikipedia.org/wiki/Botulinum_toxin